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「メディア・広告」の未来像をSF的想像力によって描く:WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所とサイバーエージェントが取り組んだ、「SFプロトタイピング」の裏側

WIRED 2021/06/08

「SF的想像力」を用いて企業や産業の未来を見通す──『WIRED』日本版とクリエイティヴ集団「PARTY」が設立した「WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所」では、「ミラーワールド/メタヴァース時代のメディア・広告の未来」をテーマにサイバーエージェントとプロジェクトを行なった。サイバーエージェント常務執行役員の内藤貴仁、メンターとして参加したSF作家の津久井五月と小野美由紀、そして研究所所長の小谷知也と共同創設者であるPARTY代表・伊藤直樹が、そのプロセスを振り返る。

SF作家と「複数形の未来(Futures)」を描く

──今回、サイバーエージェントさんとは「ミラーワールド/メタヴァース時代のメディア・広告の未来」というテーマで、SFプロトタイピングの取り組みをさせてもらいました。最初はSci-Fiプロトタイピング研究所のメンバーでありPARTY代表の伊藤直樹がサイバーエージェントの内藤さんに本プログラムを紹介したんですよね。

伊藤 はい。現代のデジタルメディアや広告を取り巻く状況を考えてみると、デジタルデータの主権をメガプラットフォーマーから個人の側に戻そうとする流れがあります。トリスタン・ハリスが「Time Well Spent(有意義な時間)」の重要性を提唱したり、ヨーロッパ発でGDPRが施行されたりと従来のターゲティング広告のあり方が問い直されていますよね。だからこそ、広告の未来像をディストピアも含めて想像してみることには大きな意義があると思い、「SF思考で広告・メディアの未来像を描いてみませんか?」と、内藤さんにお声がけしたんです。

内藤 わたしたちはデジタルメディアや広告を中心にビジネスをしていますが、目線が短期的な売り上げ増や効率化にどうしても偏ってしまい、インターネット本来の可能性を活かしきれていない感覚があったんです。このままでは、中長期的にビジネスを成長させられない。ここ数年は、そんな課題感を抱いていました。

社内で未来について考えるような会議を実施したこともあるのですが、広告やメディアの未来像を考える際に、自分たちの売り物の延長線上の発想しか出てこなくて。生活や社会といったレイヤーから未来を考える必要性は認識していたものの、自分たちだけでは難しいとも感じていました。だからこそ、SFというこれまで考えたことがない切り口で数十年後の未来を想像し、そこからバックキャスティングで現在と接続するアプローチならば、突破口が見出せるのではないかと思ったんです。非常にオリジナリティがあるプログラムで、サイバーエージェントが取り組む意義があるなと感じたんです。

──このプログラムの特徴として、メンターとして現役のSF作家に参加してもらっている点があります。今回は、津久井五月さんと小野美由紀さんにご協力いただきました。

津久井 「デザインフィクション」ではなく「プロトタイピング」と付いていることに注目しました。プロトタイピングは一般に実際の製品や量産化を目指した検証プロセスなわけですが、そのように出口を意識した作品づくりができるといいのかなと思いながら、プログラムに参加させてもらいました。

小谷 津久井さんは、SF的思考をきっちり言語化してご説明いただける方だなと思ってお声がけしました。「楽しくかき乱しておしまい」ではなく、きっちりとメソッドを残してくださるのではないかと、わたしたちも期待していた部分があったんです。

小野さんは、『WIRED』日本版が大切にしている「“Future”ではなく“Futures”」という考え方、つまり大きな企業が描く単一の未来像だけでなく、“複数形”としての多様な未来像を担保していただけそうだと思い、依頼させていただきました。わたしたちはオルタナティヴな立場の目線をもっている作家さんに必ず参加いただくことにしています。数々の強烈な作品を書かれてきた小野さんに、予定調和にならないよう、鋭利に撹拌いただく役割を期待していました。

小野 ありがとうございます。わたしはこれまで、社会のど真ん中ではなく、周辺にいる人たちから社会のありようを照射するかたちで作品を書いてきたので、そうした外側からの目線が盛り込めたらいいなと思って参加させてもらいました。

物語の形式でアイデアをプロトタイプする意義

──Sci-Fiプロトタイピング研究所では、「STEP1:仮説(問いやテーマを起点に未来の世界を想像する)」「STEP2:科幻(サイエンスフィクションとしてのストーリーを描く)」「STEP3:収束(その未来にたどり着くための変化点を探る)」「STEP4:実装(プロダクトやサーヴィスの実装に臨む)」の4つのプロセスによって、プログラムを構築しています。今回は「STEP3:収束」の一部まで、つまりアイデア出しから執筆までを一気通貫で体験いただきました。一通り終えて、所感はいかがでしょうか?

内藤 こういう人がいて、こういう生活をしていて、こういう場面に遭遇して、こういうことを考えて……アイデアを作品に落とし込むためには、描写のディテールを考えなければならないので、高い解像度で未来を想像できた感覚があります。わたしたちビジネスパーソンは、「競争戦略のなかで、この会社にどう勝っていけばいいか」「このプラットフォーマーとどのように差別化すればいいか」といった企業視点でばかり未来を考えているので、個々人の思考や行動について思いをめぐらせる、よい機会になりましたね。

小谷 ありがとうございます。やはり、SFであることが大きな意味をもっていると考えています。単なるアイデア出しでは、そのアイデアが社会のなかでどのように機能するかまではなかなか発想できません。でも、アイデアを起点に世界観を精緻に描いたり、物語とそこに登場するキャラクターを描いたりすることで、「どのような人々がその価値を享受するのか? 一方で、不幸になる人がいるとしたらどのような人々なのか?」という解像度で検討できます。

未来の社会やそこで暮らす人々の機微を精緻に描けば、そこで展開されるビジネスや、そのビジネスを行なうためにいま取り組むべきことを、バックキャスティングのアプローチで検討できるはずなんです。

伊藤 「シンキング」ではなく「プロトタイピング」としていることに象徴されるように、思考実験にとどまらず、最終的には実装を見据えている点も特徴ですよね。だからこそ、次の事業アイデアにつながる、レヴェルの高い思考実験が実現できているのではないでしょうか。

──「物語を書く」という、ふだんの業務とはまったく異なるプロセスを体験することになったと思うのですが、その過程で参加者の方々にはどのような変化がありましたか?

内藤 ワークショップ外でも、グループごとにけっこうな頻度でオンラインMTGを重ねていました。そのプロセスのなかで、普段の仕事ではなかなか出てこないみんなの考えもよくわかりましたし、変わっていく様子も感じられて面白かったです。やっぱり、未来のことを考えるのは楽しいですよね。こうした業務外のプログラムは、しっかりコミットしてもらうのが難しいことが多いのですが、今回は非常に集まりが良かったです。サイバーエージェントはもともと、未来をつくっていきたいと思って入社した人が多い会社ではあるので、その楽しさを改めて実感してくれたのではないでしょうか。

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